帳簿だけでは見えない経営の問題――生成AIで自分の無意識を探ってみる

AI活用

本文文字数: 2,492 文字 | 読了目安: 約7分

影が襲ってくる

あなたの時計はいま何時何分を指しているか、近くにある時計を確認してほしい。確認できたら、次はあなたのお客さんの時計は何時何分を指しているか、想像してみてほしい。ここで、お客さんの時計の指す時間が自分の時計の時間と同じだと問答無用で思いこんでいる場合、ちょっと危ないかもしれない。

経営がうまくいかないのは、経営者が自分の時計だけで動いて、お客や社員の時計、はたまた世の中の動きという時計に無頓着であり、そういう無意識が「経営がうまくいかない」という事象として現れているのではないだろうか。

こんな仮説に基づいて、この文章を展開してみることにする。

子会社が暴走した事例

ここで一つ、私がかつて間近で見た、あるグループ会社におけるホームページ制作会社の暴走事例を紹介する。

イケイケの若手ITベンチャーでの出来事ゆえ、かなり極端な事例である点はご了承願いたい。

その会社はグループ内で営業を専門にする子会社で、ある時、親会社の開発したホームページ管理システムとホームページ制作をセットにして売ることになった。彼らはホームページ制作の知識はゼロだった。しかし営業力はあるから色々な会社にホームページを売りまくる。
そして、売りっぱなしにした。デザインなどの制作は外注だが、ディレクションもしないで外注に丸投げするのだ。納品したかどうかも確認しないでとにかく次々に売りまくる。

そしてどうなったか。その子会社の社長は親会社の怒りを買い短期間で姿を消した。外注先にも取引先にも多大な迷惑をかけて一切責任をとらず消えた。

もしその子会社の社長に、制作を外注している会社の時計の進み具合はどうかとか、ホームページを売ったお客の時計はどうなっているかなど最低限の相手の時計への配慮があれば、悲惨な結末にはらならなかったかもしれない。

ちなみにお客は契約時に全額または部分的に前払いで支払いをする契約だった。

お客からすれば、契約時に金を払ってホームページを受け取っていないまま放置されれば、その時点でホームページに関しては時計は止まったままだ。

こういう無配慮のつけはその子会社の帳簿に異常な現象となって現れる。お客からの入金はあるが日々の支払いでそれは消えていく。しかしその入金は売上ではなく前受金や契約負債として帳簿上は処理されるはずだから、納品しないままだと負債が積みかさなっていく。

こういうまずい経営をしている社長のお客や外注先などの時計への無頓着さが、帳簿には時差を伴ってやがて見える形で現れるが、気づいた時にはすでに遅い。

ここで紹介した事例はイケイケのITベンチャーであったことなのでかなり極端な事例だが、経営者の無意識が経営に与える重要性を如実に物語っている。帳簿に問題が現れてから気づくようでは遅いのだ。では、こういう失敗の確率を下げるにはどうすればいいか。自分の無意識を少しでも把握して、経営に活用する方法ないだろうか。

無意識をAIに入力して把握する手軽な方法

自分の無意識を可視化する手軽に試せる方法がある。寝ている間に見た夢をAIに記録させるのだ。ただし、AIには毎日の夢の解釈を無理にさせなくていい。夢の意味を自分で断定せず、「どんな解釈があり得るか複数の解釈を提示して」のように質問する。その中にはひょっとしたら有用な意見があるかもしれない。それと向き合うことで、自分の無意識を部分的にとはいえ意識下にいれることができるかもしれない。

このようにして日々を積み重ねていくと、帳簿には会社の経営状況が記録され、夢や感情のAI日記には自分の無意識が記録されていく。その二つを時系列で照合してみると、自分では気づかない心の動きが見えたり、新たな発見があるかもしれない。

例えば、社員を増やして業務を拡大したいのにいい人材が集まらないとか、離職率が高くて定着しないといった悩みがある経営者は、自身の無意識がそういう現象となって現れている可能性があるので、上記のような方法で自分の無意識を把握することで問題解決の糸口を掴めるかもしれない。

影をなくした男

最後に一つ小説を紹介してこの文章を閉じることにする。

アーデルベルト・フォン・シャミッソーの『影をなくした男』だ。主人公シュレミールはしがない文無しの男で、旅先の安宿では受付の者が一目で屋根裏部屋に通すほどだ。そんな貧乏な彼だが野心はある。見栄をはってある金持ちのパーティーに一張羅で参加する。知り合いが一人もいないそのパーティーで、彼は灰色の服をきた男に目をとめる。その男はドラえもんのポケットのように自分のポケットから次々に便利な道具や財産、はては何頭もの馬まで取り出すのだが、不思議なことにパーティーの参加者はだれもその灰色の服の男の存在に気づかない。

主人公はパーティーからの帰り際に、その灰色の男からあなたの影を譲ってほしい、お礼はいくらでもする、という旨の頼み事をされる。金が欲しい主人公は、いくらでも金貨が出てくる袋と引き換えに自分の影を譲ってしまう。

主人公を待ち受けるのは過酷な運命だった。欲しかった金は無限にあるのに、影がないために誰からも見向きもされない。

と、だいたいこんな筋なのだが、得られる教訓は明白だろう。無意識や自分の影を軽視すると、その影が自分に襲ってくるかもしれない。

まとめ

この文章で紹介した時計という概念は、ユング心理学の宇宙時計を念頭においている。事例では自分の時計、お客の時計を挙げたが、例えば、自社のサービスが時代を先取りし過ぎて周りの理解を得られないことがあると思うが、これも時計のズレだ。自社の感覚と世の中の間隔がズレていると、優れた製品やサービスであっても売れない。

だから、経営者は様々な時計が合うように調整する必要がある。GMOのように経営者が営業イケイケ体質であること自体が悪いわけではなく、そういう経営者であっても時計のズレを認識できる冷静さや、自分で難しいなら経営者に意見できる側近などがいれば、会社全体として安定するだろう。

このブログの著者
早川 朋孝 人文系ITコンサルタント

利便性だけを追求するITシステムに未来はないと考え、人文知からこれからのITシステムのありかたのヒントを得ようと奮闘中。
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