「個人情報4月から2.5億件流出」の真相

時事ネタ

本文文字数: 5,655 文字 | 読了目安: 約15分

2026/10/30(金)の読売新聞の一面にこんな見出しが出ていた。

「不正アクセスで個人情報漏えい、4月以降延べ2億6000万人分…100万人超の事案20件超」

個人情報漏洩

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確かに個人情報流出は続いているのだろうが、これは本当に「AIの進化のせい」などという曖昧な一言で片付けられる事象なのだろうか。「AIの進化のせい」で片づけることの何が問題かというと、何の説明にもなっていないということに尽きる。現象の裏側を丁寧に見てみよう。

目次

  • 1分間に16回の偵察
  • 今の個人情報漏洩の報道はコロナ騒動の感染者数と似たような構造
  • 表に出てこないだけで本当はもっと多い個人情報漏洩
  • なぜマスコミが数ばかり報道するか

1分間に16回の偵察

以下は私の管理しているあるサーバーのログのある瞬間を抽出したものである。

0.000 - - 13.140.xxx.xx - - [30/Oct/2026:10:07:47 +0900] "GET /wp-content/plugins/sendinblue/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 169.40.xxx.xxx - - [30/Oct/2026:10:07:47 +0900] "GET /wp-content/plugins/postman-smtp/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 169.40.xxx.xxx - - [30/Oct/2026:10:07:50 +0900] "GET /wp-content/plugins/wp-smtp/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 169.40.142.177 - - [30/Oct/2026:10:07:51 +0900] "GET /wp-content/plugins/amazon-s3-and-cloudfront/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 169.40.xxx.xxx - - [30/Oct/2026:10:07:54 +0900] "GET /wp-content/plugins/smtp-mail/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 169.40.xxx.xxx - - [30/Oct/2026:10:07:57 +0900] "GET /wp-content/plugins/gmail-smtp/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 169.40.xxx.xxx - - [30/Oct/2026:10:08:01 +0900] "GET /wp-content/plugins/wp-mail-bank/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 169.40.xxx.xxx - - [30/Oct/2026:10:08:05 +0900] "GET /wp-content/plugins/email-log/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 13.140.xxx.xx - - [30/Oct/2026:10:08:07 +0900] "GET /wp-content/plugins/newsletter/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 169.40.xxx.xxx - - [30/Oct/2026:10:08:10 +0900] "GET /wp-content/plugins/wp-mail-log/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 169.40.xxx.xxx - - [30/Oct/2026:10:08:17 +0900] "GET /wp-content/plugins/mailgun/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 169.40.xxx.xxx - - [30/Oct/2026:10:08:22 +0900] "GET /wp-content/plugins/sendgrid/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 13.140.xxx.xx - - [30/Oct/2026:10:08:24 +0900] "GET /wp-content/plugins/woocommerce/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 169.40.xxx.xxx - - [30/Oct/2026:10:08:25 +0900] "GET /wp-content/plugins/brevo/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 169.40.xxx.xxx - - [30/Oct/2026:10:08:30 +0900] "GET /wp-content/plugins/mailchimp/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"
0.000 - - 169.40.xxx.xxx - - [30/Oct/2026:10:08:35 +0900] "GET /wp-content/plugins/mailjet/ HTTP/1.1" 404 162 "-" "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/126.0.0.0 Safari/537.36" "-"

ちなみに全部攻撃の形跡です。より具体的にはこれは脆弱性のあるページなどを無作為に探すボットで、攻撃というより偵察段階のログというほうが妥当かな。泥棒がアパートの各部屋のドアが開いてないか、1件ずつノブを引いて確認しているような状況を想像するといい。手当たり次第に弱い部屋を探しているのだ。

1分30秒くらいで16回の無作為アクセスがあり、3回を除いて同じIPからきている。このサーバーは当然セキュリティ対策をしているので、この程度の偵察で損害を蒙ることはない。

ちなみにこのサーバーはたいしたアクセス数があるわけでもないのに、常時こういう怪しい偵察に遭っている。これはこのサーバーに限定される現象ではなく、世界中の公開されているサーバーはすべてこういう偵察に遭っていると言える。

ちなみに偵察元のIPは、おそらくハッカーに乗っ取られたサーバーや個人端末(例えばネットワークカメラとか)の可能性が高い。乗っ取られたといっても、持ち主が乗っ取られたことに気づいておらず、攻撃用プログラムを仕込まれている状態が維持しているのだ。

そして、こういう偵察や攻撃は昔から常にある。今に始まったことではないのだ。まずはこの事実を知ってほしい。

今の個人情報漏洩の報道はコロナ騒動の感染者数と似たような構造

毎日のように個人情報漏洩がニュースになる。新聞の一面などに出てくる。ここまで報道が過熱すると、これまで個人情報漏洩に関心のない人までもが意識するようになるのは想像に難くない。

特にITシステムなどに疎い経営者が報道を連日見て「うちは大丈夫かな」と心配になり、社内の情シスや担当者に個人情報漏洩の可能性がないか指示する。そして、IT担当者がシステムに怪しげなログを見つけ、「やられました」と経営者に報告する。そしてその会社のウェブサイトで情報漏洩が報告され、マスコミの知るところとなる。

こうやって個人情報漏洩が毎日のように新聞の見出しを飾る。

表に出てこないだけで本当はもっと多い個人情報漏洩

上の段落では、情シスに指示して情報漏洩が発覚する流れを書いたが、情シスがいない会社はたくさんある。例えば、昔、外注にシステムを作ってもらい今はもう保守をしていない零細企業は、ITの人員がいないし、仕様も分からない。予算もない。

だから自社で漏洩があるかどうか調べようにも調べられない。こういう野良システムみたいなのは世の中にいくらでもある。つまり、個人情報漏洩は現実にはもっと多いというのが私の見立てだ。表に出てきていないだけなのだ。

そしてそういう会社のシステムが、この記事の最初に書いた偵察などの攻撃元として、知らないうちにハッカーに乗っ取られていることが多い。徳川家康は「農民を生かさず殺さず」と言ったらしいが、ハッカーは乗っ取ったサーバーや機器を完全に壊したりしない。ゆるい感じで維持し続ける。

こういうことはAIの進化にかかわらず、昔からある。もう一度書くが、上記のログのような偵察や攻撃は昔から常にある。個人報道で連日のように○億件情報漏洩とか、○○千万件が流出とか書いてあると、AIのせいでITシステムがやばい時代になったとつい感じてしまう。

しかし上に紹介したログなどの例を参考に少し落ち着いて現実を見ると、特定の現象に注目して数を数えれば、数が増えて見えるのは当たり前だと分かる。

今の個人情報漏洩の報道はコロナ騒動の感染者数と似たような構造だとお分かりだろう。この記事の冒頭で紹介したグラフはきっと嘘ではないのだろう。しかし、現実にいきなり増えたわけではない。人々の意識が変わって問題が認識されるようになったので、情報流出が増えて見えるのだ。

なぜマスコミが数ばかり報道するか

なぜマスコミが数ばかり報道するのか、それは儲かるから。

これは当然だが、私たちは具体的な数字に弱い。新聞の見出しに大きい数字が掲載されると、そこにさも真実があるように感じてしまう。実際にその数字が盛られてもいない、誇張も嘘もない数字だとしても、過大な印象を持って受け取ってしまう。

この私たちの性質を詳細に説明したのが、ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』だ。これは読み物として面白いし、実生活にも役立つのでぜひ読んで欲しい。

人間の脳にはシステム1とシステム2という性質があり、直観的にすぐ判断する性質がシステム1で、時間をかけて思考したり検証したりするのがシステム2だ。そして言うまでもなく、我々はエネルギーを節約するためにシステム1に頼りがちである。だから感情を揺さぶるような扇動的な新聞の見出しやSNSのサムネイルに弱い。

このシステム1という性質に頼り過ぎた状態を「思考停止」と呼ぶのだと私は思っている。

私は『ファスト&スロー』を3回読んで、読書ノートもみっちり取って、思考停止に陥らないのに多いに役に立っています。

このブログの著者
早川 朋孝 人文系ITコンサルタント

利便性だけを追求するITシステムに未来はないと考え、人文知からこれからのITシステムのありかたのヒントを得ようと奮闘中。
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