簿記2級なめてた。45歳のおっさんがその価値を熱く語る

マーケティング, 会計

本文文字数: 3,734 文字 | 読了目安: 約10分

簿記2級

「わたしはこの夏を簿記に捧げようと思う」

これは 『成瀬は都を駆け抜ける』のp99の抜粋だ。ちなみにシリーズ200万部の大ヒット青春もの。
成瀬は都を駆け抜ける

主人公の成瀬あかりは、2級の合格を目指す簿記ユーチューバー”ぼきののか”を合格させるべく一緒に勉強する決意をし、19歳の夏を簿記2級の勉強に捧げた。ぼきののかは74点で合格し、京大生の成瀬あかりは98点で2級に合格した。ちなみに成瀬あかりは簿記の勉強を開始する前は3級の知識すらないのに、彼女は一ヶ月半で合格した。

以上は小説のお話。

2026年、45歳のおっさんの私の夏も簿記2級に捧げられた。もちろん19歳の京大生女子の輝かしい青春とは対比する意味などまったくないのだが、お盆休みも9月のシルバーウィークもずっと勉強してた。マリノスの試合は観に行ったけど、遊んだのはそれくらい。日常の読書も比重を減らして簿記の勉強をした。村上春樹の新作やライトノベルを読んだことはあったけど、読書はそれくらい。

ノー酒、ノー夏休み、but簿記

ここまでして日商簿記2級を取る意味はあるのか、簿記2級がなぜ営業ツールになるのか?この記事ではそれについて書こうと思う。

結論から書くと、簿記2級は経理担当者よりも、むしろ経営者や営業マンにこそ勉強してほしい資格だと感じた。なぜなら簿記は、お金を記録する技術であると同時に、商売の仕組みを理解するための技術だから。

前半はただの体験記なので、興味のない方は簿記2級をとってこんなに良かった!から読んでください。

目次

簿記2級の勉強を始めた理由

3級を取得したのは2025年の6月、半年ほど違う勉強をして2026年の年明けから2級の勉強を始めた。

そもそも簿記を勉強しようと思ったきっかけは、自分の仕事に危機感をもったからだ。AIの進化によってプログラムが得意なだけの人は仕事がなくなる。素直にそう思った。というか実際に仕事の受注が減り始めていた。私は新規の受注を主に自分のウェブサイトから取っていたのだが、アクセス数がAIの普及と反比例して減っていった。

さらに冨山和彦氏の『ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか』をその頃に読んだものだから、より一層危機感を持った。

仕事の幅を広げよう、と決意した。目をつけたのが簿記だ。別に会計士になるわけではないし、経理業を専門にするわけでもない。しかし既存のソフトウェアを開発する自分のスキルと簿記の知識を組み合わせれば、今までにない提案ができるだろうし、何よりビジネスの共通言語である会計の知識をつけることは意味があると思った。

そして、たまたま私の周囲に日商簿記2級を持っている人が数人いた。それぞれの話を聞き、2級まで取ってやろうと決意した。ちなみに、この時点で簿記がなんなのかさっぱり分かっていない。

簿記2級の勉強を開始するに際して情報収集するべく、親しい人、そうでない人を含めいろいろな人の意見をきいた。大半の人は私には2級までは不要だという意見だったのだが、会社経営しているある友人は取る意味はあると言い、その意見が強く刺さった。私は取ることにした。

それぞれの人はそれぞれの立場から誠実な意見をくれた。どの意見もきっと正しい。私には「不要だ」「時間もったいない」という意見のほうが圧倒的に多かったのだが、それが自分に合うかは別の問題で、事を始めるにあたって多くの意見を聞けばいいというわけではない。

まず簿記三級をとった

ということで2024年の秋、商工会議所の簿記講座に通い始めた。10回くらいの講座で一万円という衝撃の破格である。三ヶ月くらい全回を通い、基礎は身についた。講座修了後は理解したつもりになってしばらく勉強を放置。とはいえ無駄にしたくなかったので春頃に勉強を再開して2025年6月に3級に合格した。

一般に3級合格までは100時間くらいとされているが、私もたぶんそれくらいだったと思う。

そして合格したその日に2級の教科書を買った。人間はケチだから、先にお金を払ってしまえば回収するべく必死に勉強する。だからとりあえず教科書を買った。買った教科書に軽く目を通す限り、3級の延長だと思った。2級合格までの勉強時間は一般に300〜500時間くらいらしい。もっともこういう目安にたいした意味はないと思っている。

簿記2級の勉強が始まらない

2級の取得は絶対と決めていたのだが、諸事情で一時的に経済学を勉強することになった。これが重い。時間的に簿記との両立はできないので、2級の勉強は一時休止し、また半年ほど放置されることになる。余談だが、勉強した経済学はフリードリヒ・リストの『経済学の国民的体系』だ。この体験についてはまた別の記事で披露することにしよう。

そして、2026年の年が開け、放置されていた2級の教科書を開いた。3級の教科書より分厚い教科書が2冊あり、それぞれ商業簿記と工業簿記だ。とりあえず商業簿記から始めた。やはり3級の延長だなと感じた。

ゆるいペースで勉強すること半年くらい、商業と工業の両方の教科書を読み終えて、「よっしゃ終わった」と思った。で、問題集を買って解き始めたのだがまったく解けない。「なにこれ、は?」という感じ。特に工業簿記は暗記ではまったく通用しない。これはまずいと思い、ゆるいペースを解除して本格的に勉強を始めた。

そして冒頭のとおりおっさんのひと夏を簿記に捧げ、合格とあいなった。だいたい半年で500時間くらいだと思う。どんな勉強をしたかは別の記事で改めて紹介する。

次に、簿記2級をとっていかに良かったかを書くことにしよう。

簿記2級の利点を取得してかみしめた

まず新聞の、特に経済面の理解度が飛躍的かつ圧倒的に増す。いままで記事を読んで本当に理解していたのか疑問に持つくらい。最近だとプルデンシャル、ニデック、オルツなどの営業不正や不正会計の記事が新聞を賑わしているが、こういった記事が一瞬でかつ立体的に読めるようになる。これは簿記3級ではここまでの理解力は得られないと思う。

例えば、損益計算書に本業の収支と営業外の収支があることくらい少し会計の本を読めば表面的な知識は得られるが、簿記2級を取得するくらいまで勉強すると、何度も問題集を解く過程でそういった表面的な知識が自分の血肉になっていくのが感じられる。自分の血肉になれば日常でその知識をたやすく運用できる。

また稲盛和夫さんの『実学 – 経営と会計』のような本を読むと、そこから得られる情報量が簿記2級の知識があるのとないのとではまったく違う。これだけで500時間の勉強価値はあると断言するが、新聞の理解度が増すだけではない。

ケース別:こんな人には特に有用な簿記2級

私はビジネスマンにとって簿記2級は有用だと確信している。経理マンとか会計事務所に務める人でなくとも有用である。特に経営者、自営業、営業職などの人には極めて有用だと思う。

なぜなら売り込む人が自分の商品やサービスを営業をするに際して、相手の財務諸表を意識したうえで提案ができるようになるから。これは大きい。ちょっと極端だがITシステムを経営者に販売するダメ営業とできる営業を比較してみよう。

ダメ営業
自社のシステムの機能を紹介するだけ。費用を案内するだけ。自分側の事情しか話さない。典型的なダメ営業パターン。
できる営業
相手の関心を見抜きシステムの費用、償却費、そこから得られる利益を提示する。一時的に赤字でも3年後に黒字転換するとか物語を提示する。

他にもソムリエとか、デザイナーとか、簿記が有用な人はたくさんいる。

例えば、ソムリエが簿記の知識があれば、自店舗やレストランのワインの在庫が資産としてどれくらい価値があって、どうやって在庫を回転させればいいかなどが見えるようになる。単にワインに詳しいだけの人から一段上の視点が得られ、そういった人材が経営者からすれば欠かせないのは容易に想像がつく。

デザインや動画制作、Web制作、システム開発などをしている人にも簿記は有用だ。経営者に売り込むに際して無形資産、リース契約などの知識があれば、提案の幅が広がる。将来の仕事に不安があるホワイトカラーの人がブルーカラーに転職するにしても同様のことが言える。

まとめると、
ただ単にデザインが得意
ただ単にワインに詳しい
ただ単にシステムが得意
ただ単に英語ができる
といった人それぞれの得意分野に、簿記の勉強で身につく会計というビジネスの基本素養が加わることで、立体的な提案ができるようになるということ。

つまるところ中小企業の経営者が関心があるのは売上、利益、キャッシュフローなど、つまり事業の継続だ。相手の貸借対照表や損益計算書を意識して提案できる意義はとてもつもなく大きい。

私がシステム開発は得意だけどデザインの素養がないので、システムのUIで悩むことがよくある。当然外部のデザイナーに発注するのだが、そのデザイナーがこちらのキャッシュフローまで意識した提案をしてきたら、その提案にイチコロだ。

このブログの著者
早川 朋孝 ITコンサルタント

利便性だけを追求するITシステムに未来はないと考え、人文知からこれからのITシステムのヒントを得ようと奮闘中。
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